選挙戦略

無所属・新人が選挙で勝つには?地盤・看板・カバンなしの戦い方

地盤・看板・カバンがなくても選挙は戦えます。資金は公費負担で、知名度はネット選挙で代替可能。市議選に必要な票は数百〜数千票規模です。新人・無所属の戦い方を解説します。

選挙の世界には「地盤・看板・カバン」という言葉があります。組織、知名度、資金。この三つを持つ者が勝つ、という意味で使われてきました。どれも持っていない自分には無理だ。そう感じて立ち止まっている方に読んでいただきたい記事です。

結論を先に言います。三バンのうち二つは、制度と道具で代替できる時代になりました。カバンは公費負担で、看板はインターネットで。残る地盤についても、市議会議員選挙という舞台の特性を理解すれば、戦い方は見えてきます。

そして2027年3月1日から、そのインターネットのルールが変わります。メール固有の規制が廃止され、AIで作った画像には「AIで作った」と表示する義務が生まれます。新人がいちばん頼る道具の話なので、この記事では現行のルールと改正後のルールを分けて書きます。

この記事は2026年10月時点の公職選挙法にもとづいています。ネット選挙運動については、2027年3月1日施行の改正(令和8年法律第58号)の内容もあわせて記載しました。改正後の規定は、附則2条により施行日以後に公示・告示される選挙に適用されます。選挙運動のルールは判断が微妙な場面が多くあります。個別の行為が適法かどうかは、必ず選挙管理委員会にご確認ください。

結論:三バンのうち二つは代替できる

三バンが選挙の常識とされてきたのは事実です。ただし、その前提は制度の変化とともに崩れつつあります。

カバン(資金) 公費 選挙カー・ポスター・ビラは自治体が業者へ直接支払います
看板(知名度) ネット 2013年にインターネット選挙運動が解禁されました
地盤(組織) 狭く深く 市議選は選挙区が狭く、必要な票の絶対数も小さい

新人・無所属が押さえるべき構造

  • 資金の差は制度で埋まる。公費負担を使い切れば、三点セットの持ち出しはほぼ消えます
  • ただし公費には条件がひとつ。供託物没収点以上の得票が必要です(法93条)。票が届かなければ全額が自己負担になります
  • 知名度の差はネットで縮まる。ウェブサイトとSNSは候補者も支援者も使えます
  • 市議選に必要な票は数百票から数千票規模。国政とは桁が違います
  • ルールは厳格。戸別訪問の禁止、事前運動の禁止は新人ほど踏みやすい落とし穴です

「地盤・看板・カバン」を分解する

三バン意味新人の代替手段
地盤(じばん)後援会、支持団体、地域のつながり狭い範囲での対話の積み重ね。テーマで結びつく支持
看板(かんばん)知名度、肩書き、家名ウェブサイト・SNSでの発信、街頭での露出
カバン(かばん)資金力公費負担でほぼ代替可

三つのうち、もっとも確実に代替できるのがカバンです。これは気合いや工夫ではなく、制度としてそう決まっているからです。順に見ていきます。

カバン(資金)は制度で越える

選挙運動用自動車・ポスター・ビラ。いわゆる選挙の三点セットは、選挙公営(公費負担)の対象です。上限額の範囲内で契約すれば、自治体が業者へ直接支払います。候補者の口座を経由しません。

制度を知らない候補者

737,307円 選挙カー・ポスター・ビラを自費で払います。資金力のある候補者との差が、そのまま露出量の差になります。

持ち出し 約74万円

制度を使い切る候補者

0円に近づく 同じ露出量を、公費で確保します。資金力のある候補者と同じ土俵に立てます。これが選挙公営制度の目的です。

持ち出し 0円に近づく

※浦安市(千葉県)の市議会議員選挙の限度額による試算です。上限額は自治体の条例で定められるため、金額は自治体によって異なります。

浦安市の市議会議員選挙における公費負担の限度額の内訳 市議選で公費がまかなう枠(浦安市・ポスター掲示場227か所) 選挙カーは一般乗用旅客自動車運送業者以外と個別に契約した場合・7日間 ポスター作成 449,687円 選挙カー 254,100円 ビラ作成 33,520円 合計 737,307円ぶんを公費でまかなえます 限度額は条例で定めるため自治体によって異なります。供託物没収点以上の得票が条件です。
図1:浦安市の市議会議員選挙における公費負担の限度額(出典:浦安市選挙管理委員会。更新日 令和7年11月4日)

選挙公営制度は、そもそも「資力の有無で立候補の機会に差がつかないようにする」ために設けられた制度です。浦安市の案内にも「立候補しようとする人の負担を減らし、資産の多少にかかわらず立候補や選挙運動の機会を持てるようにするのが選挙運動費用の公費負担制度です」と書かれています。使わない理由がありません。詳しくは市議会議員選挙の費用の記事と選挙公営制度の記事で解説しています。

公費負担には「没収点以上の得票」という条件がつきます

ここは記事の都合で省きたくなるところですが、書きます。公費負担は、供託物没収点以上の得票がなければ受けられません。浦安市の案内も「公費負担は供託物没収点以上の得票が得られないと受けることができず、かかった費用全額が候補者自己負担となります」と明記しています。

没収点は、地方議会の議員選挙では次のように決まります(公職選挙法93条1項3号)。

供託物没収点(地方公共団体の議会の議員の選挙)

有効投票の総数 60,000票
÷
議員の定数 30人
×
10分の1 1/10
=
没収点 200票

法93条1項は「達しないとき」に没収と定めています。ちょうど200票なら返還され、公費負担も受けられます。※有効投票の総数は選挙が終わるまで確定しないため、事前に没収点を正確に出すことはできません。上の数字は有効投票6万票・定数30人と仮定した例です。

公費を使うほど、没収点の重みが増します

公費の枠を使い切って票が届かなかった場合、その全額が自己負担になります。供託金も戻りません。浦安市の限度額で考えると、供託金30万円と公費相当の約74万円をあわせて100万円超が持ち出しになる計算です。「使えるから使う」ではなく、何票取れそうかを先に見積もることが、制度を使う側の責任になります。必要票数の出し方は地盤の章で説明します。

法律上避けられないのは供託金だけです

選挙に出るときに、制度の工夫では消せないお金がひとつあります。供託金です。立候補の届出をするときに法務局へ預けるお金で、一定の得票があれば全額返還されます(公職選挙法92条・93条)。

選挙の種類別の供託金の額 選挙の種類別の供託金(公職選挙法92条1項) 一定の得票があれば全額返還されます。額は法律で定まっており、自治体による差はありません 町村議会議員 15万円 市議会議員(指定都市以外) 30万円 指定都市の市議会議員 50万円 町村長 50万円 都道府県議会議員 60万円 市長(指定都市以外) 100万円 地方議会の議員選挙の没収点は「有効投票の総数 ÷ 議員の定数 × 10分の1」(法93条1項3号)
図2:選挙の種類別の供託金の額(出典:e-Gov 法令検索「公職選挙法」92条1項)

市議会議員選挙なら30万円。町村議会議員選挙なら15万円です。この額は法律で決まっているので、自治体による差はありません。没収点に達すれば全額が戻ります。資金面でいちばん現実的な見積もりは「供託金+公費の枠外にかかるお金」であって、数百万円ではありません。内訳は供託金の記事と選挙費用の相場の記事にまとめています。

看板(知名度)はネットで作れる

2013年4月の公職選挙法改正で、インターネットを利用した選挙運動が解禁されました。これは新人にとって決定的な変化でした。ただし、何でも自由にできるわけではありません。手段によってルールが違います。

手段候補者一般の有権者根拠
ウェブサイト等
(ホームページ・ブログ・SNS・動画)
使える使える法142条の3第1項
電子メール
(SMTP方式・SMS方式)
使える使えない法142条の4第1項
有料のネット広告
(候補者名を出すもの)
出せない出せない法142条の6

※この表は2026年10月時点の現行法です。電子メールの行は、2027年3月1日施行の改正で扱いが変わります。

ウェブサイト・SNSは、候補者も支援者も使えます

ウェブサイト・SNS・動画は、候補者も支援者も使えます。法142条の3第1項は頒布できる人を限定していません。あなたの投稿を見た支援者が「この人を応援してください」と自分のSNSで広げることができます。組織を持たない候補者にとって、これは地盤の代わりになりうる回路です。

あわせて知っておくと安心なのが、投票日当日に投稿を消す必要はないということです。選挙期日の前日までにウェブサイト等で頒布した選挙運動用の文書図画は、選挙当日もそのまま表示させておける、と法142条の3第2項が定めています。慌ててアカウントを非公開にする必要はありません。ただし当日に新しく投稿することは選挙運動期間外の行為になります(法129条)。

電子メールだけは、いまも候補者本人に限られます

電子メールによる選挙運動は、市議会議員選挙・町村議会議員選挙では「公職の候補者」だけができます。ここは誤解が多いところなので、条文に沿って整理します。法142条の4第1項は選挙の種類ごとに主体を列挙していて、7号の「前各号に掲げる選挙以外の選挙」が市議選・町村議選に当たり、そこに挙がっているのは公職の候補者だけです。政党その他の政治団体がメールで選挙運動できるのは、都道府県・指定都市の議会の議員の選挙や知事・市長の選挙などに限られます。

そして支援者がメールやSMSで投票を呼びかけることはできません。ここを混同すると、善意の支援者を法令違反に巻き込むことになります。現行法ではメール送信の規制に罰則もあります(法243条1項3号の2。2年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)。事前に伝えておいてください。

ネット選挙運動には連絡先の表示義務があります

選挙運動用のウェブサイトやSNS投稿には、電子メールアドレスやSNSアカウントなどの連絡先(電子メールアドレス等)を表示する義務があります(法142条の3第3項)。誰が発信しているかを明らかにするためです。プロフィール欄への記載で足りるのか、投稿ごとに必要なのかといった運用は、選挙管理委員会に確認してください。
なお、この表示義務そのものに直接の罰則は置かれていません。ただし真実に反する氏名・名称・身分を表示してネットで通信すると、氏名等の虚偽表示罪になります(法235条の5。2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)。なりすましや匿名のふりは、別の犯罪として処罰の対象です。

有料のネット広告は出せません

お金で露出を買う道は、ネットでも閉じられています。候補者の氏名や政党の名称(それらが類推されるような事項を含む)を表示した広告を、有料でネット上の文書図画に掲載させることは、誰にもできません(法142条の6第1項)。選挙運動期間中は、禁止を免れる行為も、候補者名を出さずに選挙運動用サイトへ誘導する機能を持つ広告も禁止されています(同条2項・3項)。違反は2年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(法243条1項3号の3)。

資金力のある候補者が広告で押し切れない、ということでもあります。ネットの土俵では、お金ではなく発信の中身と継続で差がつきます。ここは新人に有利な設計です。

ネットで積み上げられるのは告示日より前

ここが重要です。選挙運動ができるのは、立候補の届出をしてから投票日の前日までだけです(公職選挙法129条)。それより前に「私に投票してください」と呼びかければ、事前運動として禁止されます(違反は1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。法239条1項1号)。

では告示日前に何もできないかというと、そうではありません。政治活動としての発信はできます。地域の課題について考えを述べる、活動報告をする、勉強会を開く。投票の呼びかけにわたらない範囲で、あなたが何を考えている人なのかを知ってもらうことができます。市議選の選挙運動期間はわずか7日間です(法33条5項。町村議選は5日間)。知名度づくりの本番は、その手前にあります。何をいつまでに準備するかは逆算スケジュールの記事にまとめています。

MOPPsならポスターとビラは持ち出し0円。街宣車も手配します。必要な支援を選んでお見積もりする

2027年3月1日から、ネット選挙運動のルールが変わります

2026年7月17日に公布された令和8年法律第58号(公職選挙法および情報流通プラットフォーム対処法の一部改正)が、2027年3月1日に施行されます。ネット選挙運動の条文がまとめて書き換わるので、新人にとっては2013年の解禁以来いちばん大きな変更です。

2027年3月1日からの4点

  • メール固有の規制が廃止されます。「ウェブサイト等」と「電子メール」の区別がなくなり、法142条の3「インターネット等を利用する方法」に一本化されます
  • AIで作った画像・映像には表示義務が生まれます(新設の法142条の5)
  • 虚偽の事項を広めない責務が加わります(法142条の7第1項の新設)
  • 条文の番号が入れ替わります。142条の4と142条の5の中身が差し替わるので、古い解説記事の条番号はそのまま使えません
条現行(〜2027年2月28日)改正後(2027年3月1日〜)
142条の3ウェブサイト等を利用する方法による文書図画の頒布インターネット等を利用する方法による文書図画の頒布
142条の4電子メールを利用する方法による文書図画の頒布落選運動用の文書図画を頒布する者の表示義務
中身が入れ替わります
142条の5落選運動用の文書図画を頒布する者の表示義務AI生成画像等の表示義務
新設
142条の6有料広告の禁止等同じ(文言が「インターネット等」に統一)
142条の7選挙に関するインターネット等の適正な利用1項に虚偽事項に関する責務を新設し、現行の規定は2項へ

メール固有の規制がなくなります

現行法の142条の4は、メールで選挙運動するために重い条件を課しています。送れる主体が候補者等に限られること、あらかじめ同意や通知を得た相手にしか送れないこと、その事実を証する記録を保存すること、送信拒否の通知を受けたら送らないこと、メール本文に4つの事項を表示すること。この条文がまるごと削除されます。

現行(2027年2月28日まで)

2本立て ウェブサイト等は誰でも使えるが、電子メールは候補者等に限られ、同意取得・記録保存・表示義務がかかる。違反には罰則もある。

142条の3 と 142条の4

改正後(2027年3月1日から)

1本化 メールもウェブサイトも「インターネット等を利用する方法」として同じ扱いになる。メール固有の規制と、その違反に対する罰則は廃止される。

142条の3 に一本化

罰則も連動します。メール送信規制の違反を処罰していた法243条1項3号の2と、メールの表示義務違反を処罰していた法244条1項2号の2・2号の3は、いずれも削除されます。かわりに適用されるのは、ウェブサイト等と同じ法142条の3第3項の連絡先表示義務です。

支援者への説明を、施行日で切り替えてください

いま「メールでの呼びかけは候補者だけ」と伝えているなら、2027年3月1日以後に公示・告示される選挙では、その説明が正しくなくなります。逆に、2027年2月28日までに公示・告示された選挙では現行のルールがそのまま続きます(附則2条)。改正の内容そのものより、どちらのルールが当てはまる選挙なのかを先に確かめることのほうが実務では大事です。

AIで作った画像には、AIで作ったと表示する義務ができます

新設される法142条の5は、AI関連技術を利用して作成または改変された画像・映像が掲載された文書図画をネットで頒布する者に、その旨を表示することを義務づけます。対象は次の2つです。

  • 選挙運動のために使用する文書図画——期間の限定はありません
  • 落選運動のために使用する文書図画——選挙期日の公示・告示の日から選挙当日までに頒布されるもの

「AI関連技術」は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)2条の定義を引いています。同条は、人間の認知・推論・判断にかかる知的な能力を人工的な方法で代替する機能を実現するために必要な技術、および入力された情報をその技術で処理して結果を出力する情報処理システムに関する技術、と定めています。生成AIで作った画像は、まず対象だと考えて準備するのが安全です。

ケース表示義務条文上の根拠
生成AIで作った人物画像や風景を、選挙運動用の投稿に使う必要法142条の5本文1号
撮影した写真をAIで大きく改変して使う必要同上
改変の内容が社会通念に照らして軽微なもの対象外同条のかっこ書き
実際に撮影されたものと誤認されるおそれのないもの(イラスト・アニメなど)対象外同条のかっこ書き

ただし「軽微」「誤認されるおそれがない」の線引きは条文からは読み取れません。明るさの調整が軽微にあたるか、背景の人物を消す加工はどうかといった判断は、選挙管理委員会に確認してください。迷ったら表示するほうが安全です。

なお、この表示義務に直接の罰則は置かれていません。改正後の条文を通して検索しましたが、法142条の3から142条の5までを引く罰条はありません。ただし表示を怠ったうえで真実に反する表示をすれば、氏名等の虚偽表示罪(法235条の5)や選挙の自由妨害罪(法225条)に触れる可能性は残ります。罰則がないことは、やってよいことを意味しません。

虚偽の事項を広めない責務が加わります

法142条の7に1項が新設され、選挙に関してインターネット等を利用する者は、候補者に関し虚偽の事項を公にし、または事実をゆがめて公にして選挙の公正を害することがないようにしなければならない、と定められます。現行の「悪質な誹謗中傷をするなど表現の自由を濫用して選挙の公正を害しないよう努める」という規定は2項に移ります。

あわせて情報流通プラットフォーム対処法が改正され、大規模なプラットフォーム事業者に、選挙の公正への悪影響を軽減する措置を取る義務と、その実施状況を年1回公表する義務が課されます。候補者側が直接負う義務ではありませんが、虚偽情報を流された場合に事業者へ申し出る足場ができる、という意味があります。

どの選挙から適用されるか

改正後の規定は、施行日(2027年3月1日)以後に公示・告示される選挙に適用されます(令和8年法律第58号 附則2条)。施行日の前日までに公示・告示された選挙は、従前の例によります。
2027年春には統一地方選挙が予定されています。報道では道府県・指定都市が2027年4月11日、それ以外の市区町村が4月25日とされていますが、期日は臨時特例法の成立をもって確定するため、本記事では確定日程として扱いません(2026年10月7日時点で一次情報による確認は取れていません)。いずれにせよ2027年3月1日より後に告示される選挙であれば、上の新ルールが適用されます。

地盤(組織)は「狭く深く」で代替する

市議選に必要な票は数百票規模

国政選挙のイメージで市議選を見ると、必要な票数を大きく見誤ります。実際の数字を確認してください。

目標設定の二段構え(有効投票6万票・議員定数30人の市を仮定)

最低ライン(没収点) 200票
<
本当の目標(前回の最下位当選者の得票) 選管で確認

没収点は供託金の返還と公費負担の条件にすぎません。実際に何票必要かは過去の選挙結果から逆算できます。選挙管理委員会のホームページで前回の最下位当選者の得票数を確認してください。多くの市議選で、当選ラインは1,000票前後から数千票の範囲に収まります。※実際の有効投票総数は選挙が終わるまで確定しません。

数千人と会うことは、組織がなくても不可能ではありません。市議会議員選挙は、候補者本人と有権者の距離が最も近い選挙です。ここに新人の勝ち筋があります。市議会議員になるにはの記事では、資格や準備の順序も含めて解説しています。

広く浅くではなく、狭く深く

地盤を持つ候補者は、市内全域に薄く支持を広げられます。それを真似ても勝てません。新人が取るべきは逆の戦略です。

  • 地域を絞る——自分が住み、顔が見える範囲から始めます。全域を回ろうとして薄まるのが典型的な失敗です
  • テーマを絞る——「なんでもやります」は誰にも刺さりません。子育て、介護、交通、産業。あなたが当事者として語れるものを1つか2つに絞ります
  • 会った人を記録する——名簿は組織の代わりになります。誰と、いつ、何を話したか。地道ですが確実です
  • 支援者に発信してもらう——SNSでの応援は一般の有権者にも認められています。組織のない候補者にとって最大の増幅装置です

支援者に動いてもらうときに、先に伝えておくこと

地盤の代わりになるのは人です。ただし選挙運動のルール違反は、やった本人が罰せられます。善意で手伝ってくれる人を守るために、次の線引きを最初に共有してください。

支援者の行為可否根拠
SNS・ブログ・動画で投票を呼びかけるできる法142条の3第1項
候補者の投稿をシェア・リポストするできる同上
メールやSMSで投票を呼びかける現行はできない法142条の4第1項(2027年3月1日に廃止)
有料のネット広告を出すできない法142条の6
投票を目的に家を一軒ずつ訪ねるできない法138条1項
18歳未満の人が選挙運動をするできない法137条の2
手伝いに対して日当を受け取る届け出た職種に限る法197条の2第2項・5項

報酬については、払える相手が法律で絞られています。事務員、選挙カーの上で選挙運動をする人、手話通訳者、要約筆記者。この4つに該当し、かつ使用する前に選挙管理委員会へ届け出た人だけです(法197条の2第2項・5項)。一般の選挙運動員に日当を渡せば買収になりかねません。金額の基準と人数の枠は選挙事務所の費用の記事で解説しています。

やってはいけないこと

新人ほど踏みやすい落とし穴を挙げます。知らなかったでは済みません。罰条と法定刑まで載せます。

禁止されている行為内容罰条・法定刑
戸別訪問投票を得る・得させる・得させない目的をもって戸別に訪問すること。候補者だけでなく誰であっても禁止です(法138条1項)。演説会の告知を戸別に行う行為、候補者名を言い歩く行為も同じ扱いです(同条2項)法239条1項3号
1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
事前運動立候補の届出前に投票を呼びかけること(法129条)法239条1項1号
1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
一般有権者による電子メールでの選挙運動メールでの投票呼びかけは、市議選・町村議選では公職の候補者に限られます(法142条の4第1項7号)。2027年3月1日施行の改正で、この規制は廃止されます法243条1項3号の2
2年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
(改正により削除)
有料のネット広告候補者名や政党名を表示した広告を有料で掲載させること(法142条の6)法243条1項3号の3
2年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
選挙運動に関する飲食物の提供いかなる名義でも原則として禁止です(法139条)。湯茶とそれに伴う通常の菓子、および選挙事務所での弁当の例外があります法243条1項1号
2年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
選挙運動員への報酬届出をした一部の職種を除き、買収にあたります(法197条の2)法221条(買収罪)
18歳未満の者による選挙運動本人も、使用する側も禁止です(法137条の2)。選挙運動のための労務は例外法239条の2ほか

とくに戸別訪問の禁止は、善意で踏んでしまいやすい規定です。「挨拶回り」のつもりでも、投票を目的とした戸別の訪問は禁止されます。線引きが難しい場面は必ず選挙管理委員会に確認してください。

妨害や誹謗中傷を受けたときに引ける条文

新人は攻撃の的になりやすい立場です。やられる側の条文も知っておいてください。演説を妨害する、文書図画を壊す、偽計や詐術で選挙の自由を妨げる。これらは選挙の自由妨害罪として、4年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です(法225条2号)。候補者や選挙運動者への暴行・威力も同じ条文です(同条1号)。

ネット上の虚偽情報については、2027年3月1日から法142条の7第1項が「虚偽の事項を公にし、事実をゆがめて公にして選挙の公正を害することがないようにしなければならない」と定めます。これは責務規定で、罰則はありません。ただし、真実に反する氏名・名称・身分を表示した通信は氏名等の虚偽表示罪(法235条の5)になります。被害に遭ったら、記録を残して選挙管理委員会と警察に相談してください。

選挙が終わったあとにも制限があります

見落としやすいのが選挙後です。当選または落選に関して選挙人に挨拶する目的で、戸別訪問をすること、文書図画を頒布・掲示すること、当選祝賀会などの集会を開くことは禁止されています(法178条)。自筆の信書と、祝辞や見舞への答礼の信書は例外です。

そしてインターネット等を利用する方法で頒布される文書図画は、この禁止から除かれています(同条2号)。お礼の投稿はSNSでできる、ということです。紙で挨拶状を配ることと、SNSに書くことの扱いが違います。ここも支援者に伝えておくと事故が減ります。

よくある質問

無所属だと本当に不利ではないのですか?

市議会議員選挙では無所属の議員が多数を占める自治体も珍しくありません。政党の組織力は確かに武器ですが、市議選は選挙区が狭く、候補者本人の顔と考えが伝わりやすい選挙です。手続き面でも、無所属なら所属党派証明書が不要になるぶん書類が減ります。必要書類は立候補手続きの記事にまとめています。

告示日の前は、何をしていいのですか?

政治活動はできます。地域の課題について考えを述べる、活動報告を配る、勉強会や集会を開く、後援会を作る。ただし「私に投票してください」という呼びかけにわたると事前運動になります(法129条・239条1項1号)。線引きが微妙な場面は選挙管理委員会に確認してください。

SNSは何を使えばいいですか?

媒体そのものより、あなたが続けられるかどうかで選んでください。ウェブサイト等(ホームページ、ブログ、SNS、動画共有サービス)は候補者も一般の有権者も選挙運動に使えます(法142条の3第1項)。2026年10月時点では電子メールだけが候補者に限られているため、支援者への周知は丁寧に行ってください。この区別は2027年3月1日に廃止されます。

生成AIで作った画像をポスターや投稿に使っていいですか?

2027年3月1日以後に公示・告示される選挙では、AI関連技術で作成または改変した画像・映像を選挙運動用の文書図画に掲載してネットで頒布するとき、AIで作成・改変した旨を表示する義務があります(法142条の5)。改変が社会通念に照らして軽微なもの、実際に撮影されたものと誤認されるおそれのないもの(イラストなど)は対象外です。直接の罰則はありませんが、線引きが難しいので選挙管理委員会に確認してください。なお紙のポスターはこの条文の対象ではありませんが、ポスター自体に品位保持義務があります(法144条の4の2)。

2027年3月1日より前の選挙には、どちらのルールが適用されますか?

その選挙が公示・告示された日で決まります。令和8年法律第58号 附則2条は「施行の日以後その期日を公示され又は告示される選挙について適用し、施行の日の前日までにその期日を公示され又は告示された選挙については、なお従前の例による」と定めています。2027年2月28日までに告示された選挙は、告示後に施行日をまたいでも現行ルールのままです。

何票必要かはどう調べますか?

選挙管理委員会のホームページで過去の選挙結果が公表されています。前回の最下位当選者の得票数が、もっとも実際的な目標値になります。あわせて供託金が返還され公費負担も受けられるライン(有効投票総数 ÷ 議員定数 × 10分の1)も確認しておいてください。法93条1項は「達しないとき」に没収と定めているので、ちょうどそのラインなら返還されます。

資金がなくても本当に戦えますか?

選挙カー・ポスター・ビラは公費負担の対象です。法律が避けられないかたちで求めるのは供託金だけで、市議選なら30万円、町村議選なら15万円。没収点以上の得票があれば全額返ってきます。ただし公費負担も没収点以上の得票が条件です。票が届かなければ公費相当分も自己負担になります。詳しくは選挙資金がない人でも立候補できるかを解説した記事をご覧ください。

支援者が有料のネット広告を出してくれると言っています

お断りしてください。候補者の氏名や政党の名称、またそれらが類推されるような事項を表示した広告を有料でネット上に掲載させることは、何人もできません(法142条の6第1項)。選挙運動期間中は、候補者名を出さずに選挙運動用サイトへ誘導する機能を持つ広告も禁止されています(同条3項)。2年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です。

投票日当日、SNSの投稿は消すべきですか?

消す必要はありません。選挙期日の前日までにウェブサイト等で頒布した選挙運動用の文書図画は、選挙当日も表示させたままにできます(法142条の3第2項)。ただし当日に新しく投稿することは選挙運動期間外の行為になります(法129条)。選挙後のお礼についても、紙の挨拶状は制限されますが、インターネットで頒布される文書図画は法178条2号の禁止から除かれています。

町村議会議員選挙でも同じ考え方で戦えますか?

基本の構造は同じです。ただし供託金は15万円、選挙運動期間は5日間、ビラは1,600枚・通常葉書は800枚と、数字が市議選と違います。公費負担も、町村では条例があるかどうかから確認が必要です。町議会議員選挙の費用の記事で町村特有の注意点をまとめています。

まとめ

地盤・看板・カバン。この三つがなければ勝てないという常識は、制度の変化によって崩れつつあります。

  • カバンは公費負担で代替できる——選挙公営制度は資力の差を埋めるために作られた制度です。浦安市の限度額なら73万円超の枠があります
  • ただし公費には没収点という条件がある——票が届かなければ全額が自己負担です。先に必要票数を見積もってください
  • 法律上避けられないのは供託金だけ——市議選30万円、町村議選15万円。没収点に達すれば返還されます
  • 看板はネットで作れる——2013年の解禁で、ウェブサイトとSNSは誰でも使えるようになりました。有料広告は誰も使えないので、お金では差がつきません
  • 2027年3月1日からルールが変わる——メール固有の規制が廃止され、AI生成画像の表示義務が生まれます。どちらのルールが当てはまる選挙かを先に確認してください
  • 地盤は狭く深くで代替する——市議選に必要な票は数百から数千票の規模です
  • ルールは厳格に守る——戸別訪問と事前運動は、新人ほど踏みやすい落とし穴です。支援者にも先に伝えてください

三バンがなくても戦える形を、一緒に作ります

0円選挙.COMは、ポスターとビラを公費負担の範囲内で制作します。候補者の持ち出しは0円です。街宣車(選挙カー)の手配も、車両・燃料・運転手の契約から選挙管理委員会への届出まで行います。2027年3月1日施行のネット選挙運動の改正も含めて、いまのルールと次のルールの両方を踏まえた設計をお手伝いします。地盤も看板もない状態からの挑戦を、政治現場10年以上の実務者と京都大学大学院で研究を続けるメンバーが支えます。相談は無料です。

本記事の条文は2026年10月7日に e-Gov 法令検索の法令APIで確認しました。現行版は令和8年9月3日施行(令和8年法律第27号反映)、改正後版は令和9年3月1日施行(令和8年法律第58号反映)のリビジョンです。改正後の規定は附則2条により施行日以後に公示・告示される選挙に適用されます。公費負担の限度額は自治体の条例で定めるため、金額は自治体によって異なります。

出典

  1. e-Gov法令検索「公職選挙法」(現行・令和8年9月3日施行) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000100
  2. e-Gov法令検索「公職選挙法」令和9年3月1日施行リビジョン(令和8年法律第58号反映) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000100_20270301_508AC1000000058
  3. 総務省「公職選挙法及び特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律の一部を改正する法律について」 https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/senkyo/seiken_housou/000191240.html
  4. 総務省「改正の概要」(PDF) https://www.soumu.go.jp/main_content/001083455.pdf
  5. 総務省「新旧対照表」(PDF) https://www.soumu.go.jp/main_content/001083463.pdf
  6. e-Gov法令検索「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号) https://laws.e-gov.go.jp/law/507AC0000000053
  7. 東京都選挙管理委員会「選挙Q&A(選挙運動と政治活動)」 https://www.senkyo.metro.tokyo.lg.jp/qa/qa-katudou
  8. 総務省「現行の選挙運動の規制」 https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo10_1.html
  9. 浦安市「選挙運動費用の公費負担」(更新日 令和7年11月4日) https://www.city.urayasu.lg.jp/shisei/senkyo/senkyo/1003176.html
  10. 福岡法務局「公職選挙法による供託手続について」 https://houmukyoku.moj.go.jp/fukuoka/page000001_00724.pdf

株式会社MOPPs/0円選挙.COM

選挙運動・政治活動支援/立候補手続きの行政書士代行

京都大学大学院の現役社会人学生を中心とした学生ベンチャーです。政治現場10年以上の実務者、政策立案の経験者、法科大学院出身者、AI研究者が在籍しています。選挙カー・ポスター・ビラを公費負担の範囲内で手配し、候補者の持ち出しを0円に近づける支援を行っています。TEL 050-8885-6420/senkyo@mopps.co.jp

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です